連絡先

〒819-0395
福岡市西区元岡744番地
九州大学大学院工学研究院応用化学部門

機能組織化学講座 片山研究室
Fax: 092-802-2850

研究紹介

"Chemistry for Medicine"をモットーにして、ニーズに合わせて柔軟に発想しています。下記のテーマに取り組んでいます。

 

  1. 病態生理に基づくドラッグデリバリー
  2. 新しい生命指標シグナロームの創製
  3. 免疫の操作
  4. 化学修飾に基づく細胞の機能拡張
  5. ナノスケールの探査機の開発と新規治療法探索
  6. 薬物送達を超えるナノボット型DDSの開発
  7. 細胞内環境に学ぶ新材料の創製

1:病態生理に基づくドラッグデリバリー

 ドラッグデリバリーは、薬を効率的に患部に送達することで、副作用を抑えつつ、薬効は高めるという考え方です。たとえば、がん治療のドラッグデリバリーとしては、ナノサイズのカプセルに抗がん剤を入れたものに、がん細胞に特徴的なタンパク質に対するリガンドを修飾して、がん選択的に抗がん剤を運ぶシステムが数多く報告されています。しかし、このようなタンパク質は正常な細胞にもいくらか発現しているため、副作用が起こりえます。そこで、私たちは、発想を転換し、正常細胞に薬が運ばれてしまうのは止むを得ないので、正常細胞では薬が効かないシステムを作ることにしました。そのために、がん細胞に特徴的な細胞内シグナル伝達に注目し、それを担う酵素群に応答して、薬効を発揮するようなシステムを開発しています。本法をD-RECS(Drug and Gene Delivery Responding to Cellular Signal)と名づけ、実用化を目指して、これまでにPKC alphaをはじめとする様々なシグナル伝達酵素に応答するシステムを開発してきました。


 以上のほかにも、腫瘍の血管生理に注目して、腫瘍に対するナノ粒子の集積性を劇的に向上するシステムを開発しています。私たちは、病態生理を理解したうえで、それぞれの病態に適した製剤を柔軟な発想で設計しています。

2:新しい生命指標シグナロームの創製

 細胞内シグナル伝達系は、それぞれの疾病に特有のパターンがあります。私たちは細胞内シグナル伝達系タンパク質の活性の総体(『シグナローム』と名づけました)を評価できるペプチドアレイを開発しています。これにより、オーダーメード医療のための投薬前コンパニオン診断を目指しています。


3:免疫の操作

 免疫は感染から私たちの体を守り、また毎日、体内に生じると言われる数千個のがん細胞を排除しています。しかし、免疫が暴走すると自己免疫疾患やアレルギーを引き起こします。あるいは臓器移植においては、免疫の型の不適合が移植臓器に対する拒絶を引き起こします。私たちは免疫を操作することで、免疫寛容を促したり、逆に免疫応答を増強するような種々の方法を開発中です。

immunity

4:化学修飾に基づく細胞の機能拡張

 細胞の表面には数多くの種類の膜タンパク質が存在し、これらによって、細胞は外界からの刺激に応答しています。望みの膜タンパク質を遺伝子工学によって発現させることで、細胞に機能を付与し、治療に有用な細胞を作り出す試みが注目されています。私たちは、これを化学修飾に基づいて行いたいと考えています。これにより、タンパク質に限らずあらゆる分子を細胞に修飾することができ、細胞の機能を大きく拡張できると期待されます。私たちは細胞膜の性質の理解に基づき、実用的な細胞の改変技術を提案しています。これをchemical transformationと名付け、幹細胞移植や免疫治療への応用を本気で目指しています。

5:ナノスケールの探査機の開発と新規治療法探索

 入院不要の薬物治療は疾患治療の理想形と考えられますが、有効と言われている薬があるにも関わらず、適切な薬効が得られない場合も多数あります。私たちは、薬の効かない病巣の正体を暴くべく、病気の現場に送り込むための探査機を合理的な材料設計に基づいて開発し、病態解明や新規治療法創出にチャレンジしています。

6:薬物送達を超えるナノボット型DDSの開発

 薬を必要な場所に必要な量だけ適切なタイミングで送り届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)は、薬が多様化する昨今では創薬・製剤に欠かせない技術となりつつあります。私たちは、従来の“薬を運ぶDDS”を超える概念として、病巣で自ら活動を行うナノスケールのロボットを用いた、”ナノボット型DDS”の開発にチャレンジしています。

7:細胞内環境に学ぶ新材料の創製

 細胞内はタンパク質・核酸などの生体分子が高濃度かつすさまじい種類が存在する溶液状態であるにも関わらず、機能単位ごとにうまく区画化・整理され、日々安定した営みを見せています。私たちは、このような細胞内の濃厚環境や、区画化されることにより発現される機能を人工系に生かすことで、新材料が開発できないかチャレンジしています。