感謝!!
いろいろと不手際があり、皆さまにご不便をおかけいたしましたが、大過なくおえることができました。感想、ご批判、アイデアなど、建設的なご意見をいただけますと幸甚です。次回の世話人の大平先生に引き継ぎさせていただきます。以下、今年の夏季セミナーを報告いたします。
招待講演:
3名の先生方により、初学者にもわかりやすい、かつサイエンスを楽しんでいらっしゃることが良くわかる講演をしていただきました。
ベスト質問賞をもうけて、学生からの質問を奨励したところ、質問時間をオーバーするほど、質問が出ることがありました。
質問のレベルが概して高く、頼もしいかぎりでした。以下の4名が、質問賞を受賞されました。
大山 翼 君(九州大学大学院 薬学研究院)
新藤 敬悟 君(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
福澤 将史 君(九州大学工学研究院)
池田 広夢 君(九州大学システム生命科学府)
質問時間が限られるため、質問用紙を配布し、皆さんからの質問を集めて、演者の先生にお答えいただきましたので、ぜひご参考ください。演者の先生方に感謝申し上げます。
○招待講演1:
「金属を含む化学種の分離・分析法の高度化」
薮谷智規先生(徳島大学大学院 ソシオテクノサイエンス研究部)
参加者からの質問と先生からの回答
Q1:過酸化水素水による金属の脱着に関して、脱着速度を評価することで、反応機構の解明につながるような展開は可能か?
脱着速度については評価可能です。
現時点でのデータは、バッチ法により採取されておりますので、脱着速度の評価には適しておりません。
(今回の系では、比較的脱着が速く、速度の定量的な評価が難しい)
将来的にはカラムに充填したキレート固相に過酸化水素を通液するなどして、
脱着速度を定量的に評価することになると思います。
わからないことがあれば更に質問して頂いて結構です。
Q2:H2O2が錯体を形成する際、錯体の安定度はどの程度か、また、イミノジ酢酸との安定度の違いはどの程度か?
非常に良い質問だと思います。
過酸化水素とV,Mo,Wとの錯形成定数等は1980年代の有機物酸化触媒としての利用が盛んになった頃、
無機、錯体化学系の研究者に依って多くの研究がなされております。
実を言うとイミノジ酢酸とV,Mo,Wのオキソアニオンとの錯形成の方がデータが少ないです。
自分で求めればよいのですが、まだ算出しておりません。
固相中のイミノジ酢酸の解離基とイオンの濃度、溶液相の金属の残存濃度から、
算出できます。今後、求めてみようと思います。
ただ、先日の講演でははっきり言及しませんでしたが、
これらのイオンのイミノジ酢酸への吸脱着は、
イミノジ酢酸の窒素原子とオキソアニオンとの静電相互作用が主たる要因(駆動力)となっていると思います。
吸着の極大を示すpHが2.5−4であり、このことが陰イオン交換が主たる吸着をもたらす作用であることの根拠です。
(イミノジ酢酸の2つの酢酸基のプロトン解離が無く、中央の窒素原子にプロトンが付加して、イミノジ酢酸基が正に荷電するpHがpH4以下)
脱着には、ペルオキソ基との錯形成と、
過酸化水素(pH4-5 吸着時より若干高い)のキレート固相への通液に伴い、
イミノジ酢酸基の解離に伴う酢酸(COO-)-オキソアニオンの負イオン同士の静電反発が駆動力の一因になっていると思います。
以上を総合すると、イオン交換とキレート(イミノジ酢酸、ペルオキソ基−金属イオン)の双方が吸脱着に寄与していると思っております。
わからないことがあれば更に質問して頂いて結構です。
○招待講演2:
「リン酸化プロテオミクスによるシグナル伝達ネットワーク解析」
杉山直幸先生(京都大学大学院 薬学研究科)
参加者からの質問と先生からの回答
Q1:ラパチニブでHer2を阻害した際に、PKAによってHer2がリン酸化されシグナルが流れることについて、シグナルは上から下に流れると
思っていたが、下から上に流れることに驚いた。こういうことは他にもありますか。
A1:多くのシグナル伝達ではフィードバックによる制御が行われています。例えば、今回私たちが見つけたリン酸化サイトはEGFRのキナーゼ活性を促進する
ものでしたが、PKAやCAMKIIによるリン酸化でEGFRの活性を抑制する、といったリン酸化サイトも過去に報告されています。
Q2:ポテンシャルな基質を同定して、その結果から逆にネットワークを予想することに関して、基質とキナーゼはリンクできますが、その先はどのようにしてつない
でいってネットワークを完成するのですか?
A2:シグナル伝達にはリン酸化だけでなく、様々な翻訳後修飾やそれに伴うタンパク質間の結合親和性の変化などが関与しているため、
キナーゼ-基質間情報だけで完全なネットワークの予測は不十分だと考えています。現時点では、既知情報やタンパク質間相互作用データベースの情報と組み合わせ
てネットワーク予測を行っていますが、将来的にはリン酸化以外の翻訳後修飾についても大規模なデータ取得を行っていきたいです。
Q3:リン酸化反応と脱リン酸化反応の特異性はどの程度あるか?ライセートで反応したもののうちどれが本当の基質と予想するのか。
A3:私たちが実験で使用したホスファターゼは少なくともin vitroの実験系では特異性が低く、ほぼ全てのリン酸化部位を脱リン酸化することを確認しています。
一方、キナーゼはin vitro反応においても、キナーゼごとにリン酸化する相手が異なるといった特異性が見いだされています。
ライセートで反応したもののうち、どれが生理的条件下における基質であるか、というのは難しい問題です。
なぜなら細胞内ではキナーゼや基質タンパク質は局在しており、それが基質特異性にも影響していると考えられるからです。
in vitro条件下におけるキナーゼの特異性だけでは基質予測は不十分であることから、タンパク質間の結合親和性や局在情報などを併用して予測しています。
○招待講演3:
「電界下での泳動作用と膜透過による溶存イオンの検出・前処理・分離・濃縮」
大平慎一先生(熊本大学大学院 自然科学研究科)
参加者からの質問と先生からの回答
Q1:弱酸を測定する場合には、平衡到達までに少し時間が長くかかるでしょうか?あるいはピークがブロード化するのでしょうか?
A1: 弱酸の泳動と膜透過ついては,前処理法として評価した場合には,平衡移動が速いため,特に長くかかるといったことはありませんでした。
ピークのブロードかも印加電圧が低い場合には起こりうると思いますが,印加電圧を上げることで抑制することが可能です。
Q2:電場を引加してはじめて、イオンは半透膜を透過するのでしょうか?なぜ少しずつリークしたものがバックグラウンドを上げないのか。
A2:電圧を印加しなくても,イオンは,濃度拡散によって膜透過します。しかし,定量的に抽出可能な条件を用いることで,測定における問題はありません。
Q3:半透膜を限外濾過膜にすれば、高分子量のものに適応できて、フィールド・フロー・フラクショネーションのようなことができるのではないか?
A3:限外濾過膜を用いれば,FFFのようなことは可能だと思います。講演でも紹介しましたが,本法の分離の場への展開を検討しております。
サイズだけでなく,電場との相互作用をうまく使えば,高い分離特性が得られるかもしれません。ありがとうございます。
模範ポスター、一般のポスター:
化学関連でポスター賞受賞された以下の5名の方より模範ポスターがなされました。良いポスター発表をするための工夫についても、説明がありました。
座長していただいた先生方、どうもありがとうございました:井上先生(大分大)、岸川先生(長崎大)、貴田先生(九大)、浜瀬先生(九大)、大橋先生(九大)
EP1 「フラビン誘導体およびイソアロキサジン誘導体による半導体性単層カーボンナノチューブの選択的可溶化における置換基効果の検証」
(九大院工)福澤将史君
EP2 「4本鎖特異的環状化合物(cNDI) の合成とDNAとの相互作用解析」
(九工大院工)江崎有吾君
EP3 「ヒト血清アルブミンに対するナフタレンスルホン酸類の結合挙動の比較検討」
(九大院理)村重 賢君
EP4 「高反応性カルボニル中間体及び終末糖化産物定量のための高感度LC-MS/MS法の構築」
(九大院農)相川 知和君
EP5 「シス型ジオール吸着性繊維の合成とキシロース吸着性能の評価」
一般ポスターは、今回、85件の発表があり、16名の教員による審査の結果、以下の8名がポスター賞を受賞されました。おめでとうございます。
今年は、英語発表のセッションも設け、7件の発表の中から、1名が受賞されました。
秋山 紗綾香 さん(九州大学農学研究院)
上田 祐生 君(佐賀大学工学系研究科)
西 彩里 さん(九州工業大学情報工学研究院)
薬師寺 寿世 さん(福岡大学薬学部薬品分析学)
彌永 輝 君(熊本大学 自然科学研究科)
近藤 敦典 君(九州大学総合理工学府)
石郷 翔人 君(九州大学薬学研究院)
Md Zahangir Hosain君(九州大学システム生命科学府):英語セッション
研究室紹介、情報交換会:
各研究室の趣向を凝らした愉快な紹介がありました。今年は、ベストパフォーマンス賞の贈呈を忘れておりました。
世話人のお気に入りは、九大松井研のセーラー服によるパフォーマンス、九工大末田研のポケモンの熱唱、福大山口・能田研のAKBのダンスですね。
ホテルは貸切でしたので、4時ごろまで、大学をこえて、熱い議論が1階ロビーでかわされておりました。
奨励賞受賞講演:
九州支部奨励賞を受賞された3名の方による講演は、さすが受賞者と思わせる完成度の高い発表でした。3名とも女性であり、2名が中国からの留学生であり、英語での発表でした。外国人学生をちからづよくエンカレッジしたものと思います。日本人学生のみなさんは、しっかり英語を勉強し、国際化の流れにおいていかれないようにください。かく言う世話人こそがんばらないとなりません。
「The application of diffusion ordered-1H-nuclear magnetic resonance spectroscopy to evaluate the food quality」
(九州大学大学院 農学研究院 生命機能科学部門) 曹 汝鴿 君「Development of photometric and fluorometric detectors assembled with an organic light emitting diode and an organic thin film based photodiode and its application on flow analysis」
(九州大学大学院 工学研究院 応用化学部門) 劉 蓉 君「δ-MnO2に吸着したAuとPt錯陰イオンの化学状態分析」
(九電産業梶j 前野 真実子 君