Research 01 太陽光の分子システム貯蔵

光エネルギーを分子の光異性化を利用して分子に貯蔵し,必要に応じて熱量として取り出す技術(Solar thermal fuels, STFs)は,古くはノルボルナジエンやアゾベンゼンの光異性化現象、また近年ではジテニウム錯体などを対象として研究がすすめられてきました(Fig. 12)。

このように、光エネルギーを分子に蓄えるSolar fuelには、高いエネルギー密度が望まれ、このためには、溶媒で希釈しない固体あるいは無溶媒液体材料系が望まれます。 一方、例えばアゾベンゼンのtrans→cis光異性化は、固体結晶中では一般に抑制されることから、従来の光異性化現象の多くは、溶媒で希釈した溶液状態において検討されており、エネルギー密度を高めることは困難でした。

Figure 12. 分子への光エネルギー貯蔵と熱エネルギーの取り出し:Solar thermal fuelの概念

【1】無溶媒分子凝縮系(液体)Molecular Solar Thermal fuel (neat liquid STFs)の開発

そこで、分岐アルキル鎖を導入したtrans-1を開発しました(Fig.13)。この分子は室温で液体状態にあり(ガラス転移温度:-63℃)、紫外光(365 nm)と可視光(480 nm)の光照射により可逆的にtrans ⇄ cis異性化することが判りました。このとき cis-1に蓄えられるエネルギー ΔH は 52 kJmol-1であり、無溶媒液体系とするアプローチにより、thermal batteryとして必要とされるエネルギー密度(31 kJ mol-1 = 100 J g-1)  を満足することができました(Fig.13)。この成果は、無溶媒・分子凝縮系STFsの分野を拓いた成果です。

Figure 13. solvent less liquid thermal molecular fuel (Chem. Commun, 2014, 50, 15803)

【2】イオン結晶―イオン液体間の相転移を利用する高性能STFs設計指針の開拓

Solar thermal fuelにさらに高いエネルギー密度を与えるべく、イオン結晶 ⇄ イオン液体間の光誘起相転移現象を示す分子2(n、m)-Xを開発しました。 短いアルキル鎖長 (n,m)を有する 2(1,2)-Cl, 2(1,4)-Cl 及び嵩高いTf2Nを対アニオンとして持つ 2(6,4)-Tf2N は室温でイオン液体(IL)ですが、2(4, 6)-Br, 2(6, 4)-Br, 2(8, 2)-Br 及び 2(6, 4)-Br はイオン性結晶(IC)として得られました。trans-2(6,4)-Br(IC)は紫外光照射すると液化し、cis-2(6,4)はイオン液体(IL)でした。一方、cis-2(6,4)に可視光照射すると、可逆的に光結晶化することが判りました。ここで興味深いことに、cis-2(6,4)(IL)を加熱すると、trans-2(6,4)(IC)への熱異性化とともに結晶化し、この時の発熱量ΔH = 97.1 kJ mol-1はcis体のアゾベンゼン発色団に蓄えられる熱エネルギー(ΔH~50 kJ mol-1)の約2倍でした(Fig.2-3)。

すなわち、光誘起相転移現象(trans→cis光異性化に伴う光融解現象)を導入することによって、cis→transの異性化時にcis体に蓄えられる~50kJmol-1の熱量に加えて、潜熱を上乗せすることにより、分子凝縮系STFsの蓄熱量を著しく増大させることに世界ではじめて成功しました。

Figure 14. Photoliquifaction of ionic crystal to ionic liquids and development of photo-induced phase transition STFs (Angew. Chem. Int. Ed, 2015, 54, 1532)

Fig.15に示すように、私たちは、世界の先陣を切り、無溶媒分子凝縮系ならびに分子組織化STFsの新しい研究領域を拓きました。現在では、私たちの開発したSTFsの新しい方法論―分子凝縮系あるいは光誘起相転移現象を利用するSTFs-が世界的に主流となっています。

Figure 15 The development of molecular solar thermal fuels (STFs). Non-solvent condensed STFs and photo-induced phase transition in STFs have been first reported from our laboratory.