ABOUT 研究室について

ご挨拶

光(フォトン)を有用な仕事に変換することのできる”分子システム“を創りましょう

君塚研究室は、これまで「分子の自己組織化」に基づいて“ナノ構造”や“ナノ界面”に特有の新しい現象・特性ならびに機能の発現に取り組んできました。現在、分子組織化学を社会的要請の高い「光エネルギー変換化学」に展開すべく

(1)分子組織化に基づいてエネルギーランドスケープを制御するとともに
(2)分子組織化フォトン・アップコンバージョン
(3)分子組織化シングレット・フィッションの開拓
(4)分子組織化に基づく太陽光エネルギーの貯蔵・活用技術(Molecular Solar Thermal Fuel, Molecular STFs)の創成

をはじめ、デザインされた分子組織系ではじめて達成可能な“分子システムの化学”の創成に取り組んでいます。

分子組織化(左)と励起三重項光化学(右)を融合することにより、分子組織化によって初めて実現できる光エネルギーの高度活用技術を開発しています。

君塚研で学ぶということ

皆さんはこれまで、有機化学、高分子化学、生体高分子、無機化学などのカリキュラム科目に従って化学を学んできました。 一方、分子システム化学においては、 分子やナノ集積構造がどのような素材から、どのような相互作用でできているか、また、どのような“ナノレベルの表面や界面”をもち、その結果、どのような “エネルギーランドスケープ”を有しているか 極めて重要な要素になります。「分子システム光化学」、「光エネルギーの分子蓄積・変換システム」の創成、「この世に存在しなかった機能性新材料」、自己組織化の特徴を活かした「生体分子システムとの融合」をはじめとする新しい研究分野を展開するためには、自ずと「従来の教科」の枠組みを超えて、様々な物質群を自在に使いこなす学際的な力量(知識、技術)と融合展開力を習得することができます。 みなさんがデザインした分子システムに、個々の分子にはないチームワーク機能を実現することは、君塚研における研究の醍醐味です。私たちの研究室ならびに応用化学部門では、多くの最新鋭機器を導入し、皆さんにはそれらの取り扱いにも習熟してもらえます。分子設計、合成から構造解析、物性評価にわたる幅広い研究能力と“俯瞰的な視野”を身につけることができるのです。自分が合成した化合物が、新しいシステムとしての性能を示せば、身震いするような感動を味わえることでしょう。当研究室は、九州大学の化学拠点である“分子システム科学センター(CMS, Center for Molecular Systems)の中核をなす研究室です。すなわち、”分子システム化学“の創成は九州大学が世界に向けて発信し先導することが期待されている化学の新領域であり、九大の未来を象徴する研究といえます。

私たちと一緒に研究をエンジョイしませんか?

このように、君塚研究室は分子の自己組織化を基礎として、分子システム化学、ナノ(or メタ)界面の新しい化学領域を世界先端レベルで展開することのできる研究室のひとつです。 皆さんは、“熱い心”を持つ優秀なスタッフ陣とともに、質の高い基礎トレーニングを積み重ねることによって、将来どの分野に進んでも創造的な力を発揮でき、また世の中から欲しがられる“人財”へと育ってゆくことでしょう。 私たち研究室一同、未来を担う若手研究者の“卵”である皆さんと、新しい夢のある研究を立ち上げる喜びを分かち合いたいと思っています。まずは、研究室の雰囲気をご覧ください。見学は大歓迎ですので、お気軽にメールください。

九州大学 大学院工学研究院

主幹教授

君塚 信夫

特色

研究室に配属された学生さんには、まず基本的な有機合成について経験を積み、新しい分子ブロックや機能分子のデザインと合成に着手してもらいます。ひとりひとり異なる研究テーマに取り組んでもらいますが、テーマによって、π電子系化合物、様々な分子組織体、金属錯体、金属(半導体)ナノ粒子やイオン液体などの多岐にわたる物質群を合成の対象とします。君塚研での研究経験は、将来、どの研究・技術分野に進んでも必ず役に立ちます。
皆さんが卒業論文・修士論文研究などで得た研究成果は、基本的に学会(全国大会)で発表し、プレゼンの仕方(スライドの構成、発表の仕方など)を身に着けることができます。検討会での英語発表(少なくともイントロ部分)や、英語による論文執筆についても学びます。修士課程以上になると、海外で研究発表する機会は希ではありません。これらの経験は、将来、皆さんが世界のあらゆるステージで活躍する上で必ず役に立ちます。
基盤研究(S)の研究は、我々の研究室のみならず、いくつかの研究グループと連携しながら推進します。応化内では藤川茂紀グループ(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)、楊井准教授グループ(R04年度より君塚研から独立)と、また学内では九州大学理学研究院・宮田 潔 助教、恩田 健 教授グループ(超高速光化学)、学外では分子科学研究所・江原正博 教授グループ(理論化学・量子化学)と連携します。それ以外にも国内・海外の有力研究グループ、企業の研究所と共同研究を推進しています。また、当研究室では国内外から博士研究員が常時参画しており、日常的に英会話をつかう(学ぶ)機会が多いのも大きな特色です。

研究概要

私たちは、有機分子、高分子、生命分子(生命小分子・生体高分子)、光機能性分子、金属錯体、無機化合物、金属ナノ結晶などの様々な分子(ナノ)ブロックを対象として、いろんな機能を有する分子組織構造(ナノ構造)が“ひとりでに(自発的に)”創りあげられる自己組織化を研究対象としてきました(Fig.1)。これまで培ってきた「分子組織化の方法論」を基盤とし、高度な機能を有する分子システムの開発研究を進めています。

Figure 1 君塚研究室における分子システム化学の研究 ― 1. 分子の自己組織化と界面(インターフェース)化学 2. 無機化学と有機化学の融合分野―金属錯体化学、配位高分子、超分子ポリマー、金属クラスター、金属ナノ構造 3.エネルギー・環境問題を解決するための分子組織化学と光化学 4.ソフトイオニクスーイオン液体、イオン結晶、静電的相互作用を駆動力とする機能性分子組織体の開発

分子の自己組織化

適切に分子設計されたコンポーネント分子が、ひとりでに高次構造を作り上げる現象です。私たちの体や細胞、細胞器官 (オルガネラ)も、生命分子、生体高分子が自己組織化することによって、自発的に“秩序”のあるナノ構造を形成しています。この生命における自己組織化原理を化学の力で展開し、さながら分子をレゴブロックとして、部品(分子)が自ら優れた機能構造をくみ上げていくプロセスを実現することは、 “分子組織化テクノロジー”といえます。分子の自己組織化に基づいて構造秩序性を有する分子組織や超分子構造を構築することは、「分子組織化学」の基本概念であり、「超分子化学」もこれを利用しています。

Figure 2 生命分子の構造・機能からみた階層(A) ならびに 関連する化学分野(B)

分子システム化学―分子組織化フォトン・アップコンバージョンの化学を例に

チラコイド膜やミトコンドリア内膜などの生命分子システムにおいては、熱力学的なエネルギーランドスケープの極小を指向する静的自己組織化現象と、ATP合成に代表される熱力学的にuphillなプロセスを動的に共役させています。この生命における分子システム機能は、 “熱力学エネルギー最小の原理 “に支配された従来の分子組織化学や超分子化学の延長上では実現することが困難です。すなわち、自己組織化による構造形成に加えて、分子システム化学という新しい視点が必要なのです(Fig.3)。

Figure 3 分子組織化学・超分子化学から分子システム化学へ

私たちは、分子システム化学を「分子の自己組織化と“有用な仕事”を生み出す物理・化学的現象を時間的・空間的に共役組織化するための化学」と定義します。自己組織化を有用な仕事に結びつけるためには、複数の機能構成要素の分子組織化に基づいて、それらの基底状態,励起状態や遷移状態を含めたエネルギーランドスケープを分子レベル制御する技術が必要であり、それを具現化することを目標に、「分子組織化を利用するフォトン・アップコンバージョン」を想起しました。

三重項―三重項消滅(triplet-triplet annihilation; TTA)を経るアップコンバージョン(TTA-UC)は、太陽光レベルの比較的低強度の励起光を用いてアップコンバージョンを観測できる機構として注目を集めています。このTTA-UCでは、ドナー(増感剤)とアクセプター(発光体)をペアで用います。まず光を吸収して三重項励起状態(T1, Fig. 4)となったドナーがアクセプターに三重項エネルギー移動します。これにより生じた励起三重項にある2つのアクセプター分子が溶液中を拡散して衝突すると、そのうち1分子が三重項状態よりも高い励起一重項状態となり、この励起一重項状態から高いエネルギーの発光を発します(Fig. 4)。

Figure 4. TTA機構によるフォトン・アップコンバージョン(TTA-UC, エネルギーレベル図)

分子組織化フォトン・アップコンバージョンの着想

TTA機構によるアップコンバージョンでは通常、ドナー、アクセプター(発光体)として働く2種の色素分子を有機溶媒に溶解させます。まず光を吸収して三重項励起状態となったドナーがアクセプターに三重項エネルギーを移動し(TTET)、これにより生じた励起三重項にある2つのアクセプター分子が溶液中を拡散して衝突すると、そのうち1分子が三重項状態よりも高い励起一重項状態となり(TTA)、アップコンバージョン発光を発します。すなわち、低いエネルギーしか持たない2つの光子を用いて、より高いエネルギーの1つの光子を生み出すことになります。
これまでの研究では、ドナーとアクセプターを溶液やポリマーに分散させ、色素分子の拡散と衝突によりエネルギー移動を起こしていましたが(Fig.5左)、応用上重要な固体状態では分子拡散が制限される、励起三重項状態が酸素により失活するため空気中ではアップコンバージョンが起こらない、といった問題点がありました。そこで我々は、従来のような媒体中における色素分子の拡散衝突に基づくTTAを用いるのではなく、色素分子の分子凝縮系あるいは自己組織化系において、色素分子間の三重項エネルギーマイグレーション(三重項励起状態の拡散)に基づく分子組織化フォトン・アップコンバージョンが可能な、様々な分子システムを開発してきました(Fig.5 右)。
このように、分子の静的あるいは動的な自己組織化から有用な分子システム機能を導き出すための方法論を開拓することは、学術的に重要な課題であり、未来社会を支える分子テクノロジー、エネルギー変換材料をはじめとする様々な分野に応用可能な学術的基盤を与えることが期待されます。

Figure 5. 分子の拡散を利用するTTA-UCから分子組織系(励起エネルギーマイグレーション型)TTA-UCへのパラダイム変換