Research 03 イオン液体と自己組織化の融合、イオン液体の界面材料化学

イオン液体は、室温で液体状態にある溶融塩であり、常温常圧下では不揮発性であること、他の媒体との相溶性を制御できるなど、これまでの有機溶媒にない特徴を有しています.イオン液体を媒体とする触媒反応、高分子合成反応や電気化学については、多くの研究がなされています。
一方、私たちは、生体高分子を溶解するイオン液体の開発、ならびにイオン液体中における自己組織化現象に関する研究をイオン液体化学の黎明期1999年に開始しました。ハライドアニオンを有するイミダゾリウム塩が、糖、多糖や糖誘導体を溶解することや、アガロースによるイオン液体のゲル化(イオノゲル形成)を世界で初めて報告しました(Fig.20)。

また、適切にデザインした糖脂質分子がイオン液体中においてナノファイバーを形成し、イオン液体をゲル化することもはじめて見出しました(Fig.4-2)。イオン液体中における二分子膜形成を糖脂質以外にも一般化し、秩序性分子組織体がイオン液体を媒体として得られることをはじめて確立しました。

Figure 20. ハライドイオンを対イオンとするイオン液体中における糖の溶解と多糖イオノゲル N. Kimizuka, T. Nakashima, Langmuir, 2001, 17, 6759. T. Nakashima, N. Kimizuka, Chem.Lett. 2002, 31, 1018.

次にイオン液体と有機溶媒や水が限られた相溶性を示す現象を利用し、イオン液体を媒体とする界面材料科学分野の開拓を行いました。イオン液体中に少量の有機溶媒あるいは水がマイクロ液滴として分散することを利用して、イオン液体中に導入したミクロ界面を利用する中空型金属酸化物(TiO2など)の一段階合成(Fig.21左)や、極薄金ナノシートの合成手法(Chem.Lett. 2005, 34, 1234.) を開発しました。

さらに、イオン液体と水のなす界面を利用した生体高分子(タンパク質・多糖)マイクロカプセルの作製にも成功しています(Fig.21右)。タンパク質を素材とするカプセルにおいては、内水相に核酸や酵素タンパク質を導入することができることから、天然素材カプセルとして様々な応用が期待されます。

Figure 21. 糖脂質によるイオン液体のゲル化と二分子膜形成 イオン液体を媒体とする分子の秩序組織化,分子組織性イオノゲル形成の最初の報告. N. Kimizuka, T. Nakashima, Langmuir, 2001, 17, 6759. T. Nakashima, N. Kimizuka, Chem.Lett. 2002, 31, 1018.

イオン液体―水マイクロ界面におけるタンパク質マイクロカプセルの形成は、カチオン性イミダゾリウム塩からなるイオン液体と水の界面において、アニオン性のタンパク質が静電的に吸着し、集積されることを意味しますが、このことは、イオン液体が動的な担体(mobile molecular substrate)になることを示唆しました。そこで、単分散コロイド粒子の水―イオン液体界面における集積挙動を共焦点レーザー顕微鏡ならびにSEM観察を用いて検討しました。その結果、イオン液体がmobile supportとなり、無機コロイド粒子についても密な界面集積を達成しました(Figure 22)。

Figure 22. イオン液体中へのマイクロ界面の導入と金属酸化物中空粒子の一段階合成(左),タンパク質中空カプセル合成(右). T. Nakashima, N. Kimizuka, JACS, 2003, 125, 6386. M-a. Morikawa, A. Takano, S. Tao, N.Kimizuka, Biomacromol. 2012, 13, 4075.

これらイオン液体と分子組織化、界面化学を融合する一連の研究は、世界的にイオン液体における分子組織化学の先駆的研究であり、これらの知見を、フォトン・アップコンバージョン機能を有するイオン液体の開発に繋げました。

Figure 23. イオン液体―水界面における無機コロイド粒子の二次元組織化